東京高等裁判所 昭和51年(行コ)26号 判決 1977年1月26日
控訴人(原告) 中島徹
被控訴人(被告) 東京都立川都税事務所長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四九年一一月六日付でなした不動産取得税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
1 原判決二枚目裏一一行目中「事情は、」とあるのを「事情がある場合には、」と改め、これにつづけて次の主張を加える。
「更地を取得した場合と異なるから、固定資産税台帳に登録されている固定資産税評価額とは別個に借地権を控除した底地価格を課税標準として課税処分をなすべきである。しかるに、本件のように、更地と底地とを区分した基準価格を定めることなしに、すべて一率に更地価格をもつて課税標準として課税処分をすることは、租税負担の公平の原則に反して違法であり、かつ被控訴人挙示の地方税法、東京都税条例を右原則の趣旨に反して解釈適用することは、憲法第一四条一項、第九八条一項の規定に照らして違憲無効というべきである。」
2 地方税法第七三条の二一第一項但書に関する主張(原判決二枚目裏一一行目の「右規定」から三枚目表四行目の「解すべきである。」まで)は撤回する。
(被控訴人の主張)
不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産を取得するという比較的担税力のある機会に相当の税負担を求めるものであるから、不動産取得者が取得の結果実質的な利益をうけたかどうか、取得した不動産の所有権に何らかの権利制限が存するかどうか、あいは当該不動産の取得に要した実際の取得価格がいくらであつたかなど、現実の取引における個別、具体的な事情は考慮すべきでない。したがつて、不動産の取得における個別的、具体的事情に着目することなく、取得時における不動産の客観的価格を課税標準とすることは合理的である。そして、右の価格を原則として固定資産税台帳に登録される価格と定めたのは、地方税である不動産取得税と固定資産税とで評価の不統一の生ずることを避けるとともに、課税事務の簡素化を図るためである。
以上の趣旨によれば、取得した土地が控訴人のいう底地であつても、不動産取得税は当該土地の更地としての適正な時価を課税標準とすることになるのであつて、底地としての価格を適正な時価と解する余地はない。
(証拠の関係)
被控訴人代理人は乙第三号証(写)を提出し、控訴人は右乙号証の原本の存在および成立を認めると答えた。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の本件不動産取得税賦課決定処分は適法であると判断するものであるが、その理由については、原判決の七枚目表二行目から九枚目表八行目までの記載(ただし同七枚目表七行目から同裏四行目までの記載を削り、同五行目の「原告の右主張」とあるのを「控訴人の主張」とあらためる。)に、次のとおり付加してこれを引用する。
「以上によれば、控訴人がその主張のように本件土地を前所有者から賃借していて、これを賃借権の負担があるいわゆる底地として取得したものであるとしても、不動産取得税の賦課についてはそのような事情を顧慮することなく本件土地の固定資産税台帳に登録されている価格を課税標準とすべきで、それは、前記不動産取得税の法的性質および租税賦課の技術的政策に由来するものとして適法と解され、また、これをもつて直ちに租税負担の公平の原則に反するとか、所詮憲法の条規に反するとはいえないというべきである。」
二 よつて、本件課税処分には控訴人主張のような違法がなく、本件処分は適法なものというべきであるから控訴人の本件請求は失当として棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松永信和 糟谷忠男 浅生重機)